2015年12月1日火曜日

いよいよ冬型感染症の季節—最近の話題 おまけは秋の学会報告【No.61】 

 寒波が押し寄せて来て、一気に冬模様となりました。いよいよ冬型感染症の季節到来で、ノロウイルスを中心とした感染性胃腸炎が九州そして全国で流行り始めています。初期は乳幼児が感染者の主役で、やがて忘年会シーズンに突入する頃からは成人に移行して来ます。乳幼児に関連する施設内での感染から、飲食施設に置ける感染へと移行し、牡蠣の美味くなるシーズンには二枚貝の喫食、いわゆる牡蠣アタリへと感染源が移っていきます。そうそう、今年は広島から仕入れるカキの幼生の不作と値段の高騰が原因で、私の生まれ故郷相生でのかき祭りが中止になるそうです。ノロウイルスに関しては、昨シーズン川崎市内で発生した食中毒事例を含む感染性胃腸炎患者から、新たな遺伝子型のノロウイルス(NoV)GII.P17-GII.17が検出されています。流行状況調査と遺伝子解析を行った結果、2014/15冬季シーズンの1月以降に広域流行を引き起こしていたことが明らかになり、2015/16シーズンに大流行する可能性が予測されています。そのため今季感染性胃腸炎は要注意!! 手洗い励行してください。
 幸いインフルエンザは11月末の時点では大阪は流行していませんが、関東方面では少し怪しげな動きになって来た様です。AH3、AH1pdm09、B型それぞれが地域によってバラバラに流行り始めているようで、A型・B型の旧来の特徴的な流行時期ズレは最近は明確ではなくなって来ている様です。今シーズンのインフルエンザワクチンは4価ワクチン、すなわちAH1(pdm09)/AH3(スイス株)/B(ヴィクトリア株)/B(山形株)が選択されています。昨年はAH3に対する効果が不十分でした。AH3に今年はヨーロッパ株が選ばれていますが、さて効果のほどは? その効果に対して興味あるリポートがあります。一つは中高年期の高コレステロール治療薬スタチンが効果減弱に関連している(J Infect Dis 2015,10,28 On Line Ed)報告で、スタチン使用群では抗体価の上昇が36〜67%減少していたそうです。インフルエンザワクチン効果を特に期待したい高齢者ほどスタチン服用者は多いはずで由々しき問題です。対象となる群には小児と同じ様に2回接種等が将来勧められるかもしれません。一方、ブースター(増強)効果があり後期臨床試験に入っている薬剤がある様です。それはワクチン皮下接種前に塗布すると効果が期待できるクリームです(Lancet Infectious Disease 2015,11,8 On Line Ed)。尖圭コンジローマ(性行為により伝播する性感染症の一つであり、ヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus:HPV)により感染する)や日光過敏症に使用されるイミキモドクリームが、その薬理作用すなわちインターフェロンなどのサイトカインを誘導するとともに、細胞性免疫応答の賦活化により抗ウイルス作用を発揮する薬理効果の応用です。インフルエンザワクチン接種後は通常45〜75%の抗体陽性率に対し、イミキモドクリーム塗布群では98%と抗体陽性率が上昇していたそうです。これもlow responder(低反応者)ワクチン接種時の補助薬として将来有望な方法の一つとなるかもしれません。

 10〜11月には国内移動する機会が多くありました。例年秋に開催される日本未病システム学会学術集会:第22回大会長 北大千葉仁志教授 『エージレス社会と未病』が10月11〜12日札幌の北海道大学でありました。今回私はシンポジウム「未病対策から見た検体測定室」の座長を務めました。前日早めに札幌に着き、北大キャンパスをゆっくり散策することができました。北海道は15歳に初めて訪れ、19歳冬道東の一人旅、医師になってからは学会や講演、観光と6回の訪問歴がありますが、印象的だったのは冬の道東で、層雲峡の宿で熊射ち漁師と飲んだ雪冷やしビールの味が忘れられず、爾来サッポロビールの★マークが大のお気に入りになり、最近同黒ラベルの瓶ビールを飲む機会があって、私の中で復活している銘柄となっています。学会終了後定山渓温泉に一泊して早めの道南錦秋の豊平川上流の景色を楽しみました。近くの札幌市アイヌ文化交流センターで民族楽器のムックリを購入しましたが、ちょっとビンビンと音が出るので嬉しくなっているこの頃です。
 大阪の方なら大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立民族学博物館(俗称みんぱく)が万博記念公園内にあるのをご存知でしょう。この博物館は、文化人類学・民族学に関する調査・研究をおこない、その成果に基づいて世界の諸民族の社会と文化に関する情報を人々に提供し、諸民族についての認識と理解を深めることを目的として、1974(昭和49)年に創設され、1977(昭和52)年11月に開館しました。同館沿革によると、その設立の基本計画は昭和10年にまで遡る様です(http://www.minpaku.ac.jp)。 この機関と日本経済新聞社が共同主催の「みんぱく公開講座」に11月13日参加して来ました。場所は東京の日経ホールで、今年のテーマは「育児の人類学、介護の民俗学―フィールドワークによる再発見」でした。開催趣旨をコピーしますと:ダウン症のある子どもを療育する人類学者と介護施設で働きながらお年寄りの話を聞き書きする民俗学者。そこには障がいのある子どもの家族や認知症、介護の現場などにつきまとう否定的なイメージを払拭するばかりか、多様な人びとが暮らしやすい社会を実現する新たな可能性が見えてきます。本講演会では、育児と介護の現場におけるフィールドワークから、少子高齢化をむかえた日本社会の行方(ゆくえ)を探る:でした。「心に寄り添う子育てとは?―遊びと学びのすごろくワールド」信田敏宏(国立民族学博物館教授)氏と「聞き書きで介護の世界が変わっていく―介護民俗学の実践から」六車由実(デイサービス「すまいるほーむ」管理者・生活相談員、民俗学者)氏お二方の講演と、みんぱく鈴木七美教授を交えた総合討論で構成されていました。鈴木七美先生は文化人類学・エイジング研究のご専門で、各個研究としては高齢化時代のエイジ・フレンドリー社会構想と実践における人類学的想像力です。実は2013年第20回日本未病システム学会の学術集会で私がコーディネートしたシンポジウム3(未病八策の第三策):人はどう生まれどう生きるのか―時間軸の未病―:のシンポジストのお一人でした。今回演者のお一人六車由美氏にも当時シンポジストのお声がけをし、折り合いがつきませんでしたが、お蔭で今回たっぷりとご講演を拝聴する事ができました。いずれの講演も背景に流れるのは、命あるものに対する理解と共感、その人の尊厳を慈しむ心でした。職業としてのあるいは親としての役割はあるとしても、寄り添う立場を持って人としてその個人に接する時には、その瞬間に上下関係は消失してしまっています。いつも書いている Narrative Based Medicine と共通の理念を感じられた講演会でした。六車由美さんの『驚きの介護民俗学』(医学書院)は読んだので、サントリー学芸賞受賞の『神、人を喰う』−人身御供の民俗学−を1割引で買って帰りました。心が晴れやかになった講演会でした。

 少々飲み食べる機会が増えて来ました。寒くなって来ます。
 皆様、お身体ご自愛ください。 ごきげんよう

医公庵未翁 記



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