2016年11月8日火曜日

書を捨て、近江を訪ねる -人は何で生きるのか-    【No.67】

 好天に恵まれた10月末の日曜日、カミサン(なんと!)1年ぶりのスケッチ旅行:東近江五個荘に行くというのでカメラを持ってついて行きました。もともと亡父が習っていたT先生のお人柄とお言葉に甘えて、父が至福の時とよく言っていたスケッチ旅行に気まぐれに参加させてもらっている私です。父の生前には作品発表会でお目にかかっており、堺市原山台の油絵教室の仲間をその教室の先生が転居なさったのをきっかけにお誘いして、不埒な上達しない生徒として参加しているカミサンのお相伴に預かっているという次第。T先生もよくもまっ~、練習にも来ない生徒に我慢強くお付き合いくださっていると思います。まして、ただの付きそいの参加を許してくださっているのは父のおかげと先生の度量。もっとも私は喜んで参加しているのであろう父の名代の気持ちはいつも持ちながらの楽しいカメラチャンス旅行になっているのです。
 摂津本山から新快速で1時間半、JR琵琶湖腺能登川駅到着。三々五々集合した12名の日曜画家ですが接続4分のバスにはさすがグループ年齢層からは駅を駆け下りることは出来ず、ゆっくりとトイレタイムと諸手続き、先生の挨拶時間が駅舎の2階で行われました。八日市行き近江鉄道神埼腺のバスは30分に1本です。約10分程度で五個荘金堂の到着。朝5時起きで堺から参加の友人Iさんは11時過ぎとあってまずは腹ごしらえとカミサンを誘い築200年の古民家『めんめんたなか』に直行。ビール1本(4人で分配)と麦とろ飯とうどんの定食(私は蕎麦)を注文しました。少し茶色味が残った自然薯のとろろは店主の相方の摺り卸しで新鮮そのもの。遅れて店に入ってきたまじめで熱心な生徒さん達からは絵を描く前にアルコールと、参加も不埒なら昼食の注文も不埒さを指摘され、それでもめげないのはカミサンの年の功でしょう。結局カミサンとIさんはそのうどん屋をスケッチ対象としたようで、動きたくないからかどうかの理由は別として殆ど五個荘を観ずの旅行になったようです。  カミサンの絵を描く場所が決まったらそこからは私一人の散策時間。主だった近江商人屋敷を見て回りました。近江商人は“その商才を江戸っ子や同業者から妬まれ、伊勢商人とともに「近江泥棒伊勢乞食」と蔑まれたが、実際の近江商人は神仏への信仰が篤く、規律道徳や陰徳善事を重んずる者が多かった。様々な規律道徳や行動哲学が生み出され、各商家ごとに家訓として代々伝えられた。成功した近江商人が私財を神社仏閣に寄進したり、地域の公共事業に投資したりした逸話も数多く残されている”(ウィキペディア)のだそうです。訪れた商家屋敷でいろいろと説明を受けて現代にも通じるその発想はグローバル商法の原点と呼べるのではないかと思いました。交通至便の土地柄もあるでしょうけれど、そこで生まれ育った人に対して気候風土がどのように影響してきたのか、近江の麻と松坂木綿。今はそれぞれに近江牛と松坂牛の名が全国に流通していますね。時代の移り変わりとともに今は歴史的遺産のみの存在かと思いますが、この旧家ではルーツをこの地に持つ日本のトップ商社がさまざまなイベントを企画しているのだそうです。栄枯盛衰、温故知新。いい小旅行になりました。
http://www.omi-syonin.com/htm01/rinen.htm

このごろは夜が長くなって来ました。この1年に読んだ興味ある本を紹介しておきましょう。
1.  医師は最善を尽くしているか アトゥール・ガワンデ 訳原井宏明 みすず書房
2.  死すべき定め アトゥール・ガワンデ 訳原井宏明 みすず書房
ルーツをインドに持つ内分泌腫瘍外科医の著書。医療の説明できない質に医療関係者の資質が如何に働いているのか。また高齢社会の中で避けて通れぬ介護の問題。私はアングロサクソンに無い視座を感じることが出来て共感できる部分が多かったです。
再びここで六車由実さんの「驚きの介護民俗学」医学書院 を特記しておきましょう。

3. 生きものたちの秘められた性生活 ジュールズ・ハワード  訳中山 宥 角川学芸出版
とにかく面白い動物の性物語。人間の性を第3者が書く時代が来るでしょうか。CSTVでアメリカドラマを見ているとすぐに寝たという言葉が出てくるのにへきへきの昨今。
しかし動物はもっとすごい、人間は負けているのか?

4. 江戸の糞尿学  永井義男 作品社
糞尿は資源の一つ。その有効利用が江戸の町の裡にあった。出るべきもののコントロールは医療にとっては重要な課題です。ただし医療問題はこの本にはありません。出た後の知らぬ世界が広がります。

5. 不健康は悪なのか――健康をモラル化する世界 ジョナサン・M・メツル, アンナ・カークランド 訳細澤 仁, 大塚 紳一郎, 増尾 徳行, 宮畑 麻衣 みすず書房 人はどう生きるか もっと自由に、もっと個性的に 民主主義に便乗したゆがめられた医療構造。それに気付かぬ“万人の開花のための手段であることをやめ、いまや非人間化の性質を帯びている”“の部分は民主主義の内なる敵(トドロフ著、大谷尚文訳)から。

6. サルなりに思い出す事など ―― 神経科学者がヒヒと暮らした奇天烈な日々 ロバート・M・サポルスキー 訳大沢章子 みすず書房
アフリカでの研究生活をつづった猿になりきれる人とやはり人は猿?の洗練されぬ社会での人にありよう。3と6を読むと人は動物の種のひとつと実感します。

 秋の夜K136のディベルティメントを聞きながら、蒸留酒(泡盛、芋、グラッパ)が脳を恍惚とさせます。チェイサーは怠り無く! おやすみなさい。

医公庵未翁 記



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